wonder PHOTO POJECT

 

wonder「ボクの左側」

it was "dramatic every day".
 
  

scene#16 なみだのわけ

ふと、気付く。
 
最近のボクは何かとうつむきがちで、向日葵のようにいつも空を仰向く彼女とは対照的だった。窓から射す陽を拒んでいたボクの瞳には光は全く映るはずが無く、ボクの瞳はまるで冷めたコーヒーのようにくすんだ色をしていたのだろう。彼女が「あなたの瞳が茶色いのはコーヒーが好きだから?」という言葉も納得がいく。
 
「ねえ、ひとつ聞いてもいいかな?」
 
「うん、いいよ。」
 
「ずっと気になっていたこと。あの本の・・・」
 
彼女はボクの言葉を最後まで聞くことなく、あの本の染みのことを話し始めた。
 
「前につきあっていた人と喧嘩してね。彼がテーブルの上にあったコーヒーを溢したの。その時についた染みが、あれ。」
 
そう言うと彼女は、バッグからあの本を取り出してペラペラとページをめくりながら話し始めた。
 
お互いにいくつもの言葉を叩きつけあった後、彼は彼女を店にひとりにして、その場から立ち去った。そのときに勢い余ってコーヒーカップを倒して本をコーヒーで湿らせてしまった。今まで見たことのない彼の怒った顔を目の当たりにした彼女は、今の自分の顔がどんな顔をしているかを想像すると絶えきれなくなって、周囲から顔を隠すように手を覆い被せてうつむいた。やがて、目からあふれ出てきた涙は手のひらを湿らした。
 
時折聞こえるコーヒーカップとティースプーンがぶつかり合う音と、コポコポとサイフォンの中のお湯が沸騰する音は、彼女が鼻をすする音と、我慢しきれずに口から吐き出される嗚咽を、かき消してはくれなかった。
 
「その後は?」
 
彼女は首を横に振り
 
「会えなかったの。違うか・・・会えなくなっちゃったの。」
 
どうして? と言いかけて、その先の言葉をボクは飲み込んだ。その結末は容易に想像することが出来るのに。それなのにあまりにも残酷な質問をしたことをボクは後悔した。
 
「あの人の瞳もね、あなたと同じ色していたの。茶色くて、寂しくて、悲しい色。」
 
と、窓の外に目線を向けた。
 
「もう、あの時の顔しか思い出せなくなっちゃった。きっと、あの人も酷い顔した私しか思い出せなかったのかな・・・。」
 
と、彼女は言うと大きく溜息をついた。 

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