wonder PHOTO POJECT

 

wonder「ボクの左側」

it was "dramatic every day".
 
  

scene#17 消えない思い出

「ねえ、教えて。思い出って、どれだけ泣けば洗い流してくれるのかな?・・・ねえ、教えてよ。5年分の思い出ってどれだけ待てば消えてくれるの?」
 
そう言うと彼女はまた本のページをペラペラとめくり始めた。細い親指が最後のページを越えて裏表紙を弾くと、最初のページに細い親指をかけなおしてそれを繰り返した。気の利いた言葉が思い浮かばないボクは、ただただ、それを見つめることしか出来なかった。
 
「あの人のことを忘れたくない、そういうことじゃないの。」
 
ボクは黙って頷いた。分かっている。もし、そうであるのなら今までボクと過ごした日々は全て嘘になってしまうのだから。
 
「でも、こんなの・・・いつまでも持っていたら忘れられないよね。」
 
 さらに深くうつむき、ページをさらに強く弾きながらめくり続けた。
 
「あっという間だよ。」
 
ボクはそう言って、彼女の手を抑えて本を取り上げてテーブルの上にそっと置いた。
 
「え?」
 
そう、あっという間なんだ。
 
「今は無理に忘れようとしなくてもいいよ。覚えているうちは、せめて彼との楽しかった思い出だけでも大事にしなよ。」
 
彼女の居場所はここにある。
それに今は、ボクと一緒にページを重ねて始めているのだから。
それでも悲しい思い出だけがいつまでも彼女の心に付き纏って白いシャツの滲みのように消えないというのなら、ボクがその上から違う色で染めてやる。
 
「でも・・・でもね。もう二度とあんなことにはなりたくないの。最後にあなたに見せる私は笑顔でいたいの。そうしていたい。ってことを忘れたくないの。だから。」
 
そう言うと、彼女は本を手にして染みのついたページをめくり、その上を右手でやさしく撫でた。

| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |